エキノコックスは生体内で幼虫が肝臓などで増殖し,放置すれば90%以上が
死亡するという,深刻な症状を引き起こす動物由来の寄生虫である。 中でも,北海道に分布するキタキツネは,その5割以上が感染していると 言われており,以下のようなサイクルの生活環を示している。 ヒトにも感染することから,キタキツネやエゾタヌキなどのイヌ科動物を 扱う際には,最大限の注意を払う必要がある。 <扱う上での注意点> キツネを含めてイヌ科の動物は肛門の臭いを嗅ぎ合ったりして肛門付近以外にも 虫卵が体毛に付着している可能性があるので,体を触る時には注意を払うべき。 少なくとも手袋を着用し,虫卵の付着した毛が舞って吸飲することのないよう マスクも着用したほうが賢明である。 なお,子ギツネは成獣よりもエキノコックスの感染虫体数が多く,そのため 糞便中に含まれる虫卵数も多い傾向にあるので,成獣以上に取り扱いには 注意すべきである。 エキノコックスの感染例に関しては,以下のような報告がある。 水道水に入れた虫卵を-18℃で240日保存した場合は1/4で感染成功 -83℃で48時間保存した場合は感染不成立(30例) -196℃で20時間保存した場合は感染不成立(10例) よって,-70℃以下で少なくとも48時間以上保存することを推奨。 Viet et al. (1995) Parasitology, 110: 79-86. また,熱にも弱いので,70℃12時間加熱でも問題ない。 -70℃以下の状態がまる二日以上続く状態を確保する上で,-80℃のディープ フリーザーに一週間以上保存してから処理する基準を採用するのが無難である。 さらに,汚染を受けた水や器具はその解剖場所・環境を汚染しないためにも 可能なものは高圧蒸気滅菌をし,水などは煮沸してから排水することを推奨する。 しかし,エキノコックスの感染リスクについては,純粋に科学的な見地からの 安全性の問題だけでなく,社会的・道義的側面にも対応していく心づもりを 持つ必要があることを忘れてはならない。 |